インプラント使いまわし報道
2010.01.25更新
2010年1月25日
立川駅前インプラントセンター 工藤歯科 院長の工藤です。
先週発売された週刊誌に愛知県でインプラントの使いまわしが行われているという告発の記事が載りました。
その週刊誌の発売と同時に各テレビ局でも報道され問題として明るみになった事件です。
告発された歯科医のセレブぶりだとかはさておき、「インプラントの使い回し」ということの背景や問題について取り上げたいと思います。
インプラントは熟練の口腔外科医が細心の手技で臨んでも、残念ながら100%成功するわけではありません。
ということは、骨とつかないでとれてしまうものがあるわけです。
インプラントが抜けてしまう―デイスインテグレーションといいます―こと自体は残念ながら、ある頻度で起こりうることなのです。もちろん歯科医師としてはなるべくそうならないように全身全霊の努力はするのですが。
さて抜けてしまったインプラント体、あるいは手術時に一度患者さんの骨内に入れたが、初期固定が不良で、抜いて、サイズを大きくした別のものを使用した場合、その最初のインプラント体は無駄になってしまいます。
インプラント体をそのものは、体の一部として体内に残って機能していくもので、厳密に規格化され非常に精緻に作られています。そのためメーカーにもよりますが、1本あたりは3万円~5万円かかります。
1本のインプラントが抜けた場合は3万円~5万円の持ち出しが歯科医院側に必要になるわけです。
しかし当院でも用いているブローネマルクというブランドのインプラントは、抜けたインプラント体を滅菌してパックして、所定の報告書を添付してメーカーに送ると同じサイズのインプラント体新品と無償で交換してくれます。そのため、ブローネマルクインプラントの場合は、抜けてしまったインプラントを再使用することによる経済的メリットはないのです。(このシステムはブローネマルクインプラントだけかもしれません。)
しかし、このように再使用したくなる歯科医師を踏みとどませるひとつの重要なシステムではないかと改めて思いました。
もう一点は、再使用のインプラントに関する生物学的 医学的問題です。
記事にもありましたが、厳密に行ってもつかない可能性のあるインプラントであるのに、他人の体と触れたインプラント体が骨と結合するとはまず考えられません。
他人のタンパクやDNAが表面についていたら免疫応答で異物とみなされ必ず排除されてしまうと考えられます。
すなわちインプラントとしては骨とつかずに抜けてしまうわけです。インプラント表面は電子顕微鏡レベルで粗面ですから、肉眼レベルで洗浄し滅菌かけたところで、どこに何が付着したままになり、それをどうしたらとれるかは全くわかりません。
よって成功率を上げたいと考える歯科医師であれば、インプラント体の再使用などありえないことです。
結局、ブローネマルクインプラントを使い、成功率を上げようと考える歯科医師であれば再使用のメリットは何一つありませんから、 今回のような事件がなぜ起こったのか理解できないというのが大方の歯科医師ではないかと考えられました。
でもこの事件でインプラントの口腔外科的な知識が市民の間にも少し深まるきっかけにはなったかもしれませんね。これを機に他のメーカーも、ロスしたインプラント体は回収し、無償で新品と交換するシステムを導入するきっかけになるとよいと思います。
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