インプラント治療
インプラント治療には、
の両側面があります。
また、集学的治療であるために偶発症も合算され、よりトラブルが多くなると考えられます。
外科的側面のトラブル
外科的トラブルでは、
- 下顎管神経傷害に起因するオトガイ神経知覚麻痺、異常、痛み
- 蓄膿症(上顎洞炎)
- インプラント迷入(上顎洞、組織隙)
- インプラント周囲炎、膿瘍
などがあります。他にも下記のようなトラブルがあります。
上下顎共通
- 機材破損・迷入
- 術中出血
- 誤飲誤嚥
- 麻酔関連や循環器系のショック(低血圧になり意識が朦朧となる)
- 腫脹
- 開口障害
- 後出血
- 顎関節症
- 口角炎、口内炎
上顎固有
- 鼻腔、上顎洞の鼻の症状(鼻に近いため)
- 鼻漏
- 鼻閉(鼻づまり)
- 鼻出血
- 眼下浮腫
- 中顔面溢血斑
下顎固有
- オトガイ神経麻痺
- 下歯槽神経麻痺
- 口腔底出血及び呼吸困難
- 開口障害
上記は、実際に起きているトラブルで、経験値の高い大学の専門医が行っても発生する可能性があります。
しかし、患者さんの術前の状態で、ある程度トラブルの発生リスクを予測することができます。
当院ではトラブルが発生する可能性が高いと判断した場合には、インプラント治療をお断りし、リスクを避ける他の方法で治療を行います。
補綴的側面のトラブル
インプラントを長い間使用していると、時には補綴的な側面のトラブルが起こります。
特に起こりやすいのが、ネジが緩みとれてしまう「歯冠上部構造破折・脱離」です。
その他、下記のようなトラブルがあります。
- インプラント動揺・脱落(ディスインテグレーション)
- インプラントコンポーネント(スクリュー、インプラント体、メタルフレーム)破折
- 歯肉出血腫脹
- 周囲歯肉/粘膜炎
- 歯肉出血
- 腫脹
- 排膿
- 悪臭
- 周囲骨喪失/歯周病/骨結合喪失
- 違和感 異物感
- 咀嚼不全
- 舌頬粘膜誤咬
- 審美形態不良
- 発音構音障害
- 食さ迷入
不具合に気づくことができれば、すぐにリカバリすることができますので、定期的に検診を受けていただくことがトラブル回避するためには重要となります。
インプラント治療のトラブルに関する当院の考え
インプラント治療には、通常の歯科治療の中でも、より多くのリスクがありうるからこそ、「失敗しない状態で行うべきだ」というのが、当院のインプラントに対する臨床です。
骨量が少ない場合
インプラントトラブルは、誰でも同じリスクで起こるわけではありません。
骨量が少ない、または骨量ギリギリの状態でインプラントを行った場合に、リスクが高まることがわかっています。
そのため、骨量が少ない場合、当院ではインプラントではなく口腔内の状態に一番適した方法(入れ歯・ブリッジ・インプラントオーバーデンチャーなど)をご提案します。
インプラントトラブルを回避するための取り組み
当院では、インプラント治療のトラブルをできるだけ避けるために、次のことに気をつけています。
- 骨量の不足な方にはインプラント治療はしない。
- 2回法を基本とし、治癒期間をオリジナルプロコルに従って上顎半年、下顎3ヶ月待機とする。
- インプラントシステムの経験値が高く、研究データも多いインプラントシステムBranemark ®(ブローネマルク)を使用する。
- 補綴は長期間使用していく過程で問題が起きた場合に対応しやすいスクリュー固定式を採用。
- 力を受けとめるところはできるだけメタルを使用する。
- 骨量、欠損部に応じて力学的に十分な長さのインプラントを適用し、力配分、欠損歯数に応じ、十分な本数のインプラントで計画を立てる。
- 骨移植 再生的治療法に極力頼らない。(意図的傾埋入、ショートインプラント、マロクリニックプロトコル)
- 前歯部はできる限りブリッジで対応する。
インプラントの成功を意識して行う口腔外科医は トラブルが起こる可能性のある状況ではオペはしません。
- どんな治療法にもリスク・合併症はありえる
- 合併症や不快事項、リスクのない外科処置は存在しない
- その状況のうえで、術式のリスク、合併症を避けるべく必要な前準備、臨床手技で処置に臨む
このことを念頭に置き、日々治療を行っています。
インプラントに関してのニーズ
骨量がないかどうか3次元CTで計測してみなければなりません。通常の2次元レントゲンではなさそうでもCTではある場合もあります。
CTでも骨量が不足の場合はその程度により、事前に再生療法をやる必要があるでしょう。骨量不足の程度により、大学などで全身麻酔の再生療法・骨移植の手術が必要な場合もあるでしょう。治療期間と費用の問題、骨移植の場合は移植骨の採取部位の傷、なども考慮して計画を立てなければならないでしょう。
当院ではそこまで骨量不足の方には一般にはインプラント治療を推奨はしていません。
今日では抜歯と同時にインプラント、さらに仮歯もインプラントにとりつける治療も可能な場合があります。
しかし、これが成功するには様々な条件があります。その条件が満たされない場合は失敗のリスクが高くなります。よく状況を見極めて確実に成功するだろうという治療法で臨んだ方が良いと思います。
費用を安くするためには、インプラントシステム自体を安いものにする必要があります。
それは必然的に、臨床実績のあるメーカーではなくマイナーなメーカー製品を使用することになります。
また、1ピースインプラント(脱離しも対応は限界あり、形態回復も限界あり、角度補正不可)、パーツが破損しても、メーカーそのものが倒産し代替パーツ入手不能になる、など多くのリスクを負うことになります。インプラントは長く使用するものなので、安さよりも長期間使えるもの、性能が良いものを使用した方がいいでしょう。
インプラントトラブル例
下顎埋入窩洞形成のドリリングにおいて方向を誤った
-
結果
舌側に穿孔し、動静脈を傷害。それによる口腔底出血が起こり、気道閉塞し窒息。
-
検討
下顎臼歯部~犬歯部の舌側には動静脈が走行しており、これらを傷害すると「口腔底出血→気道閉塞→窒息死」のリスクがあることは、世界各地の学会誌報告でも明らかでした。
インプラント治療医なら、下顎のインプラント治療では「舌側に穿孔させないこと」は最も気をつけなければならない事項」であることはまず知っていなければならないことです。 -
改善策
舌側穿孔、出血が起きた場合には、直ちにオペは中止し、口腔底出血を止めなければなりません。もしも出血がコントロールできないとなれば、今度は気道閉塞・窒息を回避しなければならないので緊急気管切開をしなければなりません。
止血、気道確保のいずれかを、穿孔発生後20分程度で成功させなければ最悪の事態になります。顔面動脈結紮(けっさつ)も気管切開も日常茶飯事に行っている日本の歯科医は皆無なので、とにかく舌側穿孔の予防につきます。 -
今回の問題が起きた原因
- 基本的事項から逸脱した自己流のやり方で行ったのではないか
- 結果を急ぐために、どこか治療ステップを省いたのではないか
- 骨量・骨質不良部位に再生療法を期待しすぎて適用したのではないか
- 不正確な咬合付与だったのではないか
- 設計・計画には無理があったのではないか
- 事前説明の段階で、インプラント治療の限界(骨の結合は数%失敗がある、歯が入る部位はもともと残っている骨に左右される、チタン製金属強度の限界、長期的な変化への対応の可能性)について十分な説明と理解を得ていなかったのではないか
ということが考えられます。
トラブルが起こる原因は
下記の確認が十分でなかったことが原因と考えられます。
- 事前準備、外科的診断、補綴的診断が適切でない
- 歯牙欠損にインプラント治療が適応するのかという診断が確実でない
- 実際の治療手技や精度の維持が十分でない
- 咬合の安定
- 術後管理
確認が不十分であれば不快事項や合併症は起こります。
また、確認が十分であっても、物理的機械的エラー破損は起こります。
だからこそ、インプラント治療を行う時には「多くのリスクが伴う治療であること」を理解した上で、トラブルが起こり得ない状況で治療を行うことのできる、経験値の高いドクターを選ぶ必要があるのです。